第18話 「おれは直角」

バレエは女の子の憧れ。私が子供の頃もそうでした。
習っている子もいました。でも、私もやらせて―とは言えませんでした。
そんなことを言ったら笑われてしまう―と思うくらい、身体が硬かったんです(今も硬いです)。

誰もが柔らかいはずの幼少時でも、前屈のとき頭が膝に届きませんでした。体育のマット運動も大嫌い。
脚が90度までしか開かず、前屈ができない私を「おれは直角」(昔の漫画のタイトルです)と呼ぶ人もいました。数学のx軸、y軸、z軸の図を覚えていますか? あの状態です。

大学時代はテニスをやっていました。柔軟運動の前屈のとき、先輩に、力の限り背中から押され、膝の裏が痛くなって、1か月ほど、歩くのもしんどかったことがあります。今思うと、筋肉が伸びきったか、切れたか。それを機会に柔らかくなりました―なんてことはありませんでした。

というわけで、バレエを始めた頃、人前でストレッチをするなんて、もっての外。
その後、努力の甲斐あって、ふざけていると思われない程度(「おれは120度」くらい)にはなりましたが、それ以上はどんなに頑張ってもダメです。
今でもバーレッスンで、脚をもってやるストレッチ(ペダラマン)があったりすると、もうこのクラス、出るもんか! と思うこともあります。出るクラスがなくなってしまうので実行したことはありませんが。

でも、バレエを始めてから気がつきました。
俗に「体の柔らかさ」と言われるのは、腿のハムストリングスあたりの筋肉の伸び具合のことですが、背中を反らせる柔らかさ、体を捻じる柔らかさ、脚を開く(アンデオール)のに必要な股関節の柔らかさ、これらは筋肉の柔らかさとは別物かも―と。
私の場合、筋肉は硬いかもしれないけれど、全体的にはそう硬いほうではないのかも―と思うようにもなりました。

とは言っても、今、ダンスの神様が降りてきて、「何か一つ、できるようにしてあげるよ」と言ってくれたら、私は迷うことなく、「体を柔らかくしてくださいっ」ってお願いするだろうな。