第36話 エンジョイ・ユアセルフ!

第33話のオックスフォードの英語学校で、授業中にこういう質問をされました。
「音楽は何のためにあると思う?」

―芸術のため?
―宗教のため?
―自己表現のため?
上手くない英語でどう言おうかと思案を巡らせていると、ブラジル人のハイロ(Jairo)が言いました。
「決まっているじゃないか。楽しむためだよ!」

コムズカシイことを考えてしまった自分がアホくさくなりました。
ハイロ、大好き~♪ お嫁に行くにはブラジルは遠すぎたけど(泣)

ダンスも同じ―
自己表現とか、芸術とか、伝統とか、宗教上とか、それらは人間が知性を身につけるとともにくっつけられた理屈で、もともとは楽しむためだったはずです。

かつて「間違ったやり方でいくらやっても時間の無駄」を口癖に、情熱的に指導されていた先生に教えていただいたことがあります。先生のクラスの常連さんは皆、大人から始めても正確な踊り方を修得されていて、素晴らしい経験でした。
筋肉や神経は正しい使い方をすることによって発達するので、間違ったやり方でいくらやっても "効果は" 上がりません。間違ったやり方をやればやるほど身体が覚えてしまって、後戻りできなくなるかもしれません。
でも、"無駄" かどうかは本人が決めることなんです。間違っていたとしても、本人が楽しければ、費やされた時間は決して "無駄" にはならないのです。

最初の頃はついていくのが精いっぱい。全体像が見えるようになって初めて、先生が指摘されたことが理解できるようになるものです。
そのとき「ああ、なるほど」と思うもので、「先生、早く言ってくれないから、無駄しちゃったじゃないですか!?」と文句を言う人などいない―はず。先生の言葉を受け入れられる時期が来るまで、楽しさが持続するほうが大切なのではないかと思うようになりました。
ハイロ、ありがとう。