第72話 ステキな勘違い

スポーツクラブ巡りをしたことは第59話に書きましたが、その当時はまだ、スポーツ/フィットネスクラブにバレエクラスは “あっても” 稀でした。顔を出してみたものの生徒が2人しかおらず、もう1人の方がチュチュを着て受けられていたのには驚いたものです。

 

今では、スポーツ/フィットネスクラブにバレエクラスは必ずと言っていいくらいあって、どこも混んでいるようですね。スポーツ/フィットネスクラブのバレエは、某百貨店のはちみつカフェ、動物園におけるパンダのようなものかもしれません。

 

本格的なクラスもある一方、ゆるいクラスも多いようで、バレエスタジオの敷居が高すぎると感じる人たちを引きつけていると聞きました。

最近ヨガを始めた美容師さんから聞いた話では、バレエクラスを受ける人たちはオシャレなレオタードにピンクタイツ、髪を結い上げ、お化粧もきちんとしていて、それが今度は、フィットネスクラブの中でバレエの敷居を超えられない人にとって「憧れ」なのだそうです。

 

バレエは誰もが「憧れ」から入ります。舞台を見て憧れる人もいれば、レオタードショップの花柄レオタードに憧れる人あり、友人のプロポーションに憧れる人あり様々ですが、誰もがパステルカラーの夢色に包まれてクルクル回ったり、ひらひら動いたり…そんな自分を描いて、バレエシューズを買い求めるのです。

 

が、実際のバレエは決して夢色ではないのです。

クルクル回るには才能に加えてとてつもない努力が必要です。ひらひらするのは舞台の上だけ。普段のレッスンでひらひら踊っている人は…まずいません。

 

子供の頃からやっていて、あるいは大人から始めても年月が経って、バレエの原色の部分も、影の部分も見てしまった人たちは、夢色のガラスを通してバレエを見ている人たちを「勘違い」と呼ぶこともあります。

 

でも、バレエだけでなく、あらゆるダンスも、楽器も、学問だって、出発点は「勘違い」だったりします。最初から大変な部分なんて見えません。素敵な動き、うっとりとする音色に触れた瞬間、「やりたい!」と思ってしまうのです。

私が学生の頃の、テニスやスキー、ゴルフ、マリンスポーツは格好ばかりで、総額ン万円のブランドウエアに身を包まれた「勘違い」だらけでした。

フリフリのアンダースコートをはきたい!…という「勘違い」からテニスを始めた私も、やがてテニスの魅力に目覚め、アンダースコートをはかなくとも(=ジャージでも)テニスを楽しめるようになりました。

 

ずうっとバレエをやっているのに年中ヒラヒラ…というのも (°_°) ですが、本質が見えてきたとしても「勘違い」だった頃を忘れてはいけないのだと思います。

「勘違い」こそがワクワクのもとだったりするからです。

「勘違い」と思われるのを恐れて冷めたスタンスをとるのも残念な気がします。そういう人は、自分がワクワクしていたときをすっかり忘れてしまっているのです。

 

「勘違い」にもいろいろありますが、バレエに関しては「勘違い」は決して悪いものではないのです。