第79話 ミラー・ニューロン

ウィークエンド・ピアニストのエリスさんと先日、話をしていて発見をしました。

 

エリスさんは今まで、5人の先生に師事したことがあるそうですが、覚えている限り、先生の模範演奏を聞いたことがないと言うのです。

 

フラウト・トラヴェルソのレッスンでは、よく先生がお手本を吹いてくれます。長いフレーズを吹いてくれることも、先生と一緒に吹くこともありますが、そうするとその後の練習がやり易くなります。

おそらく、笛の場合は音を出すのにちょっとしたコツが必要で、感覚で学ぶ必要があるからではないかと思います。

 

エリスさんのピアノの先生も、もしかしたらニッチもサッチもいかない生徒には弾いて見せていたのかもしれません。でも基本的に、ピアノは鍵盤を押せば音が出ます。耳の良い生徒に演奏を聴かせると、先生も自ら気がつかなかった癖まで意識下で伝授されることになり、また、個性を摘み取ることになるからではないかと思います。

 

ダンスでも、先生は必ずお手本を見せてくれます。「百聞は一見にしかず」とはダンスのレッスンのためにある言葉ではないかと思うくらいです。特にシロウトの場合、イメージをインプットするには美しくて正確なお手本が必須です。最初の頃に書いた、ミラー・ニューロンが仕事をするためにも。

 

昔々、某スタジオで、夏休みになると地方のバレエスタジオの子供達が10人くらいでレッスンを受けにくることがありました。私は、最初、その子供達が全員姉妹だと思っていました。踊り方だけでなく、体型までそっくりだったんです。中には本当の姉妹も含まれていたのかもしれませんが、全員が姉妹ではないことが分かったときは驚いたものです。

 

おそらく、先生から踊り方を学び、鏡に映る自分の踊りをひたすら先生に近づけているうちに、皆が皆、踊りも体型も先生そっくりになったのでしょう。子供は頭も身体も柔軟です。

 

大人の場合は悲しいことに、先生のようになりたくてもなれるものではありません。それでも自分の好きな踊り方の先生には、少しでも近づきたいものですね。