第114話 真夏の夜のバレエ

バレエを始めた翌年だったと思います。

ちょうど今頃の季節だったでしょうか、世田谷区の公園でMバレエ団の屋外公演が催されました。

 

私の記憶が正しければ、演目は「眠りの森の美女」の第2幕。Mバレエ団のスター・ダンサーたちの競演が “無料で” 見られます。

当時、青山ヘルシィスタジオ中野スタジオで仲良しだったデイジーちゃんと、2人のお姐様方と、誘い合わせて観に行くことにしました。

 

会場となった公園には私鉄の駅からバスで行きました。

現在のように殺到することの少なかった昭和時代でしたが、なかなかの混雑ぶりで、公園の中に入るのに長い列に並んだ記憶があります。

 

公園の中は広かったので、ほどほどの間隔を開けて芝生の上に場所を確保することができ、公演の始まるのをワクワクして待っていました。

が、始まる直前になって、ポツポツと冷たいものが降ってきました。

あっという間に土砂降りになり、公演は中止。翌日に延期されるとの放送がありました。

再び列に並んで、翌日のための整理券を貰って、バスに乗って帰りました。

 

翌日、お姐様方はリタイアされ、デイジーちゃんと二人で待ち合わせてバスに乗り、公園に到着。始まるまでドキドキしましたが、今度は雨は降らず、舞台を楽しむことができました。プログラムも残っていないのに、なぜ演目を覚えているかと言うと、白猫の被りものを被ったダンサーの脚線美が印象に残っているからです。

 

そして帰り道、デイジーちゃんとしみじみ言った言葉もしっかり覚えています。

「タダより高いものはない」

 

2日間のバス(タクシーも1回くらい使ったかも)を含めた交通費、帰りのお茶代も入れると、結構かかりました。それでも劇場で見るよりは安いのですが、演目の長さ、完璧さ(舞台装置・照明など)、座席のコンディションなどを考えると、劇場でゆったり観たほうがオトクかもしれません。

でも、いつもと違う空気でバレエを自由に楽しむことができた、楽しい経験でした。

 

当時も夏は暑いものでした。

でも、梅雨明けから立秋まではたいてい心地の良い好天が続き、アウトドアを満喫することができました。夕方になると、涼しい風がほしくなって、または居酒屋に入る口実を作るため、「ひと雨ほしいね」という言葉が交わされたものです。

そして夜になると、夏ならではの涼を味わうイベントがいろいろと催されたものです。

 

それほど年月が経っているわけではないのに、気候状態はどんどん悪化し、「夕涼み」「納涼」はイベントの枕詞になってしまいました。

今こそ、あのような屋外イベントが望ましいときなのに、この気候不順でお客さんも尻込みするでしょうし、何よりダンサーの方たちが参ってしまうのではないかと思います。

 

冷暖房も進化して微妙な温湿度の調節もできるようにはなっていますが、夜の外気の心地よさはまた別物です。

温暖化、ひいては気候変動を食い止めて、感染症の流行があってもなくても、バレエ、音楽、演劇、スポーツ…etc、様々な催しが星空の下で楽しめるようになるといいですね。