第1話 プラチナ・バレリーナ

 

 

ロンドンの街中で私はふと足を止めました。
レンガ造りのビルの半地下にある大きな窓を通して、数人の男女がバレエのレッスンをしているのが見えたからです。
若い生徒にまじって、プラチナ色をした髪のおばあさんがいました。
おばあさんは、私の記憶ではパウダーブルーのレオタード。私たちのイギリス人のイメージよりは大分、華奢で小柄。ハロッズあたりでお買い物をしていそうな、上品なおばあさんでした。

初老のピアニストさんの伴奏つきのレッスンは「初級レベル」といったところ。荒っぽい踊り方の若者とは対照的に、おばあさんはていねいに、そしてすごく幸せそうに踊っていました。

レッスンメニューは日本と同じ。ピルエット、アレグロ、グランワルツ・・・。
そして、最後にグランフェッテ。
おばあさんも回っていました。
ゆっくりでしたが、1回転1回転を楽しんで回っているように見えました。

その姿は、その表情は、今でも鮮やかに思い出すことができます。

・・・というような小話(実話)をカードに書いてAEDダンススタジオ(仮称)のソフィ先生(仮名)に送りました。6年前のクリスマスでした。

ところで、ソフィ先生のクラスでは、レッスンの終わりには「必ず」フェッテタイムがあります。
それまで私は、そのフェッテタイムを見つからずに抜け出すため、忍者の火遁の術を修得しようかと計画していたのですが、あのような文章を渡してしまった以上、中途退出することもできず、見よう見まねで6年間。なんと「グランフェッテもどき」ができるようになってしまいました。

まあ、顔もついていないし、手足のタイミングもめちゃくちゃ。片足で回っているだけの「もどき」です。きちんと順序を踏んで習っていないので仕方ないです。左足軸は苦手ですが、右足軸なら16小節間。今のところ、周りの人にぶつかってなぎ倒したことはありません。壁に激突したこともありません。それでいいじゃん!(あ、でも、見に来ないでね。)

そのうちに、そんな私を見て、誰かが「グランフェッテらしいものをやっているお婆さんを見た」とブログに書く人が出てくるかも!?