全てのダンスのいちばんの基本は「立つこと」だと言われています。
バランスを取り、くるくる回転し、ポアントで立ち、高く跳ぶのは全て、真っ直ぐ立つことに始まるのです。
…と、もっともらしく書いていますが、私がそれに気がついたのはバレエを始めてしばらく経ってから。ルシーニュ先生に発表会の指導をしていただいたときでした。
しかし何事も、いちばんの基本というものは、エッセンシャル(essential)な(1.不可欠な、2.本質的な)ことのはずなのに、スルーしてもイケてしまうことが多いのです。真っ直ぐ立っていなくても、ある程度、踊れるようになってしまうのです。
先生は全体的な指摘をされますが、生徒が自分のこととして受けとらなければそれでおしまいです。私も、お腹が出ている自覚はありましたが、こんなものだろうと思っていました。
でも、タヌキにチュチュを着せて舞台に立たせるのはまずい―と思われたのでしょう。ルシーニュ先生は、"妥協をゆるさず" 徹底的に直してくださいました。
数か月、そうして先生に真剣に向き合っていただいたことで、驚くほど楽に身体が動くようになりました。センターでもぐらつかないようになり、ジャンプも跳べるようになりました。
何より、自分のクセを把握できるようになりました。その後、違う先生のクラスに出ても、ボディ・ワークでも、指摘されれば、自分が今どんな立ち方をしていて、どう直せばいいのかイメージできるようになりました。
それでも、立ち方は一度修得したら永遠に続くというものでもないのです。レッスンとレッスンの間の生活習慣がばっちり現れたりします。
「前傾ぎみのほうがいいって言われたから」みたいな覚え方をしていると、どんどん前のめりになってしまうこともあります。その反対に、バレリーナのすっとした姿勢をイメージするあまり、反り気味になっている人もたくさん見かけます。ベストと記憶している(教えてもらったときの)自分の感覚に対して、そのときそのときの自分の状態を少しずつすり合わせて、ベターな感覚を追求する―レッスンはそのためにあるのです。
…な~んて分かったようなことを書いてしまいましたが、私自身も毎回自分の身体を調節する作業を結構楽しんでしまっていて、そのおかげでバレエが続いているのかもしれません。
ルシーニュ先生にいただいた、私の大切な、もうひとつの宝物です。