第44話 くるくるの極意

バレリーナ」と聞いて誰もが連想するのはやはり、くるくる回っている舞姿ですね。
オルゴールの中でもバレリーナはくるくる。
でも、自分でやってみると、「くる」も難しいもの。

オルゴールの中のバレリーナ人形には磁石が仕込まれているから回るのです。回り続けるモノには、磁石やバネやゼンマイのような仕掛けが必ずあるのです。
人間も同じ。立っているだけで勝手に回る人は(多分)いません。
「ゼンマイの働きをする何か」が身体の中で働いているから回れるのでしょう。

くるくる回るフィギュアスケートの選手を見ていると、「ゼンマイの働きをする何か」の性能は、人によっても様々で、なおかつ10代でピークに達するような気がします。その年齢をすぎてから回りモノに挑戦するというのは、虎の穴に入るようなもの―かも。
それでも、軸の筋肉を強くして、ツボを教えてもらって、さらに神経系統を強化すれば、虎の児はもう手の中にいるようなもの―かも。

見よう見まねで形は修得したものの上手く身体が回らなかった私が、ルシーニュ先生からいただいた「処方箋」は、回る前のプレパレーションの徹底でした。
これだけは今日中に覚えてね。あなたが帰るのはその後よ―と、「プレパレーション残業」を命じられたこともありました。

何故プレパレーション?―と思いましたが、今ならわかります。
プレパレーションが、身体のゼンマイを巻いてくれているのです。ゼンマイを正しく巻けば、手を放すだけでおもちゃがくるくる回るように、プレパレーションがきちんとできれば、あとは立って顔を返すだけ。
「顔を返す」のも大人から始めた人にとって困難の極致ですが、ここだけの話、顔が返せなくてもシングルピルエットは回れます。そうは言っても、「顔を返す」のもゼンマイを巻く役割をしているので、努力はしてくださいね。

滅多に褒めてくれることのない先生でしたが、回りモノが上手くできたときは大いに褒めてくださいました。
だけど子供だったら褒められたときの身体感覚を次のレッスンまで覚えていられるのでしょうけれど、大人は忘れちゃうんですね(泣)。
…ということで、先生に褒めていただいたピルエットは、後にも先にも私の「一発芸」でした。
でも、褒めていただいたときの嬉しさは、今でも私の「宝物」です。