第59話 更衣室は社交場

新たにスタジオを訪れて最初に通されるのが更衣室です。

レッスンに不慣れなとき、この更衣室の空気が天国か地獄かで、そのスタジオに続けて通いたいかが決まる…ということも無きにしも非ずです。

 

私はいろいろなスタジオを「ノラ猫」しただけでなく、退職するとき、職場が法人会員となっていたスポーツクラブをひととおり回ってみたことがあります。

 

首都圏の場合、ただでさえ場所が狭いので満足のいく更衣室を確保するのも大変そうです。ただ着替えるだけの場所なのに、現代日本の風潮から清潔で美的でなければならず、でもシャワーは設置しなければならず、置き引きなどの対策も講じなければならず、苦労の跡があちこち垣間見えます。

細長ーい鍵付きロッカーが割り当てられたり。

縦長のロッカーが置けないスポーツクラブでは、コート掛けのハンガーに鍵がついていたり。

傘立ての鍵、靴箱の鍵、コート掛けの鍵、さらにロッカーの鍵、鍵だらけになってしまったり。

加えて「見えないように」薄暗くなっていたり、パーティションがついていたり。床も様々に工夫されています。

 

前にAEDダンススタジオの更衣室を「開放的」と書きましたが、皆さん、初めて更衣室に入ると感動されます。私もしました。つくづく「ここの更衣室、好きなんだよね」と言う人も少なくありません。

「外国のスタジオみたい!」という人もいます。

(その後で「外国のスタジオ行ったことないけど」と言う人が多かったりもします。)

 

何がそう思わせるか…というと、ここの更衣室、何もないんです! 灯りもフツーの蛍光灯。ロッカーもパーティションもなく、ハンガー掛けと大きな鏡、それにベンチらしき板が張ってあるだけ。靴箱もありません。靴は「ベンチ」の下に突っ込みます。

ちなみに傘も入口の「樽」の中に突っ込みます。

 

この何もない空間、なんとも快適です。人前を嫌う人はシャワーの脇でコソコソっと着替えることもできますが、話に夢中になると案外、他人の裸も下着も見ていないものです。目に入っても、余程衝撃的なものを身につけていなければ覚えていません。

 

レッスンの間は強面になっていても、更衣室に入ると緊張の糸が緩んでいろいろなことを話したりします。次のクラスを受けに来た人たちや他のクラスを受けに来た人たちと話しが弾むこともあります。子供を連れて来る人もいます。パンツ一枚になって更衣室で踊っている人を見たこともあります(本当よ‼︎)。舞台やチケットの情報も流れてきます。ここで私は懐かしい人たちに再会することができました。

 

昔、通っていたスタジオには大物俳優も来ていましたが、彼女は更衣室を使わず廊下でササっと「変身」していました。それがあまりにもエレガントで、舞台でも見ているようで、真似する人まで現れたくらいです。

でも凡人はやはり然るべき場所で着替えるべきだ…と私は思います。