第60話 好きこそ物の上手なれ(1)

幼い頃好きだったことと、大人になってハマったことが全く違うという人は結構います。

 

小さい頃に好きだったことって、本当に好きだったのでしょうか?

他の子と比べてちょっと上手で、またはそれをやると皆に褒められて、得意になっていただけなのではないでしょうか? 

その反対に、本当は好きなのに、他の子と比べて上手じゃないから嫌いになったことって結構あるのではないでしょうか?

 

「好き」と「上手(才能)」とは本来、全然別のこと…なんですよね。

「好きこそ物の上手なれ」とは、「好き」で続けていれば、もともと下手くそでも「上手」になるということです。

私も、本当は体を動かすのがそれほど嫌いではなかったのに、体育の授業で他人と比べられ、劣ってしまうゆえに嫌いになったような気がします。中学に入って部活を始めた時、それほど運動嫌いではない自分を発見し、飽きずにコツコツやっていたら、なんと卒業時に「体育優良賞」という賞までいただいてしまいました。「体育の授業」というものがなかったら、通信簿がなかったら、離れ小島の分校に通っていたら、私は体育が大好きだったんじゃないかと思います。

 

子供の頃からバレエをやっている人は、親の意思で始めて、他の子より上手だから、発表会でいい役がもらえるから続けているという人もいると思いますが、大人から始めた人は、いつでも100パーセント自分の意思です。鏡に映る自分が決して綺麗ではないことを発見してしまっても、発表会でコールドしか踊らせてもらえなくても、発表会など出なくとも、飽くことなくレッスンを続けることができます。

言い換えると、子供のバレエはご褒美をもらって続けるものですが、大人のバレエはレッスン自体がご褒美なのです。

 

子供を教える先生は、上手な子には将来を期待して教えます。でも、大人を教える先生は、どんなに上手な人に対しても将来を期待しません。これだけ聞くと悲しいことですが、おかげで先生と生徒の関係は純粋であるような気が、私にはします。

 

「小さい頃からやっていれば」…大人になってから始めた人たちが一度は口にするセリフではないでしょうか? 区役所に設置されている投書箱に、「小学校でクラシックバレエを教えるべきです」と書いて入れてきたという人もいました。確かに、いくらやっても上達しないとき、「子供の頃、強制的にでもちょっとでもバレエに触れていれば」と思う気持ちもわかります。

でも、子供の頃からやっていたら、または学校の教科としてクラシックバレエがあったら、好きになる前に匙を投げていたかもしれないのですよ。