第89話 滑るバレエ、跳ばないバレエ

私は運動神経が鈍いというのに “滑る” ことが大好きです。

スキーはもちろん、アイススケート、ローラースケート、ボブスレーもやりました。

最初は怖くて腰が引けるのですが、ツボにはまると病みつきになります。

ここだけの話、職場で、台車やワゴンに乗っかって、”シャー” と遊んだこともあります。

路面が凍結すると、敢えてそこを歩いてみたりもします。

 

さすがにそういうことをすると危ない(みっともない)年齢になってきたので、やめなければ…と思っていたところに出会ったのが「滑るバレエ」です。

 

それは青山にある隠れ家のようなスタジオで始まった、「コントラクション・リリース」というクラスでした。基本はバレエでありながら、ときに上半身を使ったり、床を使ったり、ア・テールでクルクル回ったり…、新鮮で楽しい体験でした。

 

残念なことに、父の介護をしているうちにこのクラスは消えてしまいました。

そんなことも忘れかけた頃、たまたま出てみたクラスで、あのクラスと似て非なる、やはり床を使うバレエに出会いました。

 

クラシックバレエのレッスンでは、床は常に足の下にあるもので、手をつくのは転んだときくらい。クラシック出身者は床を利用して踊るのが苦手(恐怖)です。

私も、ジャズダンスの経験はあったものの、床は大嫌いでした。床に寝転ぶと前後左右の感覚もおかしくなってしまいます。床上で後転なんて、先生、やめてくださいっ!…て感じです。

 

ところが、バレエの一部としてやっていると抵抗感がなくなり、心地よささえ感じるようになってくるのです。アダジオに寝技が入ったり、ピルエットの前に “シャー” と床上を滑り込んだり…。

あの ”シャー” の感触がなんともツボにはまってしまいました♡

 

最近の先生方は幅広いダンスを経験されているようです。

“普通のバレエ” の先にあるものを経験してみたいチャレンジャーのために、コンテをやりたいけれどコテコテのコンテはちょっと…と思っている人のために、またその反対にバリバリのバレエに入っていきにくい人のためにも、個性あるバレエクラスができたらバレエファンはさらに増えるはずです。

 

そして、これから高齢ダンサーが増える世の中のために、ジャンプやルルベが少ないけれど楽しい、易しくないけれど(身体に)優しい、そんなクラスができるといいな…と思っています。

 

日本国中に増殖しつつある大人バレエクラス。

そこでしか、その先生にしか習えないようなクラスがあってもいいですよね。

バレエを諦めてしまった人にも、スタジオに戻るきっかけになるのではないでしょうか。

 

30年後には是非、車椅子で “シャー” と滑って踊れるバレエを!