第117話 期間限定バレリーナ

たった1年前の出来事を遥か昔のように感じませんか?

吉田都さんの引退公演が去年の今頃。舞台放送とほぼ同時に、引退を決めてからラストステージまでを描いたドキュメント番組も放送されました。

 

その直後、AEDダンススタジオの更衣室で、何人かでエアロゾルを飛ばしまくって感想を語り合ったのを思い出します。密な会話がひたすら懐かしいです。今、あの調子で喋りまくったら翌週、更衣室にいた人全員がPCR検査です(笑)

 

さてさて、そのとき皆の話にのぼったのが、森下洋子さんから都さんに向けた「まだ踊れるじゃない。やめちゃだめよ」のコメントでした。吉田都さん50代、森下洋子さん70代です。それまでの吉田都さんの、痛々しいほどの苦闘を見ていた視聴者たちはおそらく同じことを思ったでしょう。

 

森下洋子さん、あなたこそ、いつまで踊ることができるのですか?

 

ダンサーの寿命は人それぞれです。吉田都さんも短いほうではないと思います。

そしてそれは、バレエを始めた頃やバレリーナになりたての頃、予見できた人などいないはずです。踊れる状況や気力が続いていることはもちろんですが、持って生まれた身体的条件が大きいのではないかと思います。

 

これは、プロだけの話ではなくて、趣味でやっている私たちにも言えること。

趣味なので人の目を気にすることはなく、怪我をしても休養をとることができ、やる気が寿命を左右することは確かです。それにずっと前にも書いた通り、始めた年齢が遅いほうが、それに見合った踊り方をするので長く踊れる可能性は高いのですが、やはり筋肉や骨を含めて健康であることが必須です。

 

プロもアマも関係なく、本当の「永遠のバレリーナ」などいないのです。

誰もが「期間限定バレリーナ」なのです。

 

「期間限定」の文字には人を惹きつける魔力があるようです。

いつものランチを食べるつもりで入ったカフェ。「期間限定」メニューが出ていると、ついそちらを頼んでしまいます。街に現れた期間限定ショップは、いつも混んでいます。

「期間限定」には「今」しか出会えないからです。

 

そもそも人間が生きているのも「期間限定」。

バレエが踊れるのも「期間限定」。

だから一回一回のレッスンが貴重であり、楽しいのです。