第38話 「忠実な羊飼い」

友人のチェリーさんは、ずうっと同じ先生にバレエを習っています。かれこれ40年、スタジオが移転しても、先生のいるスタジオについていきます。
ふと、「忠実な羊飼い」というタイトルの曲を思い出しました。ビバルディが作った、私の大好きなフルート・ソナタです。
私は、いくつかのスタジオを渡り歩いている、「忠実」とは程遠い、ノラ猫のような人間です。
厄介なことに、ノラ猫ほどグルメだったりします。グルメだからこそ、もっと美味しい餌を求めてノラ猫をやっているのかもしれません。

スタジオを渡り歩く理由は様々。スタジオがクローズしてやむを得ず―ということあり、友達に紹介されることもあり。ネット検索ができるようになってからは「入会金無料」の文字を見てしまうと、とりあえず入っておこっかな―なんて(笑)。

遺伝子も関係あるようです。マジな話です。
「新奇探索遺伝子」というのがあって、これが長い人ほど挑戦や冒険を好むそうです。
ともあれ、他の先生に習ってみることで、いつもの先生の良さを再認識できることもあるので、わたし的には悪いことではないと思います。ただし柔軟さが必要。

いざレッスンを受けてみて、前の先生とスタイルが違うと戸惑います。
バーの持ち方から違うこともあります。バーの持ち方くらい…と思うでしょ? ところが、普段無意識のところを変えるのって、新しい「パ」を覚えるより遥かに大変だったりします。

初めて参加したクラスで、今まで習ってきたこととあまりに違うことを言われると、自分の努力だけでなく、それを教えてくれた先生を否定されたようで、悲しくなることもあります。
その反対に、自分の身体に構築された「予測変換」が使える先生に思いがけず出会うと、まるで前世でつながりがあったかのように、嬉しくなります。
パターンの全く違う先生のレッスンでも、新鮮に感じて楽しめるようになることもあります。

でも、やはり最初の先生に教えてもらったことは、バレエを続ける限り「スタンダード」として残ります。
ファースト・ティーチャーは、「忠実な羊飼い」には勿論のこと、「不忠実なノラ猫」にとっても「神」のような存在なのかもしれません。