第40話 懐かしのリン・スタンフォード(Lynn Stanford)

青山ヘルシィスタジオの思い出の一つに、ルシーニュ先生愛用のレッスン音楽があります。
青山の中心地、高級ファッションビルの8階にふさわしい、ゴージャスでオシャレな音楽でした。

デビッド・ハワードの指示でリン・スタンフォードという人が演奏した音楽のカセットテープでした。残念なことに、リン・スタンフォードは1991年に亡くなり、以後、新しいテープはできなくなってしまいました。その後、彼のピアノほどの魅力的な演奏を聞いたことはありません。

レッスン音楽なので、あくまでもリズムは正確でありながら、
スローな曲は甘く、うっとりするほどロマンチックで、ときには荘厳で、
アップテンポの曲は軽快で、誰もが踊りだしたくなるような曲ばかりでした。
魅力いっぱいの、パッションあふれる音楽。いったい彼には腕が何本あるんだろう―と思ったこともあります。(シロウトの耳には5本くらい腕がないと弾けないようにも聞こえました。)

数々のリン・スタンフォードのテープの中でも覚えているのは、「Popular Songs・・・」みたいなタイトルの、日本人の耳にも馴染のある音楽がたくさん盛り込まれていたテープです。聞けば聴くほど元気が出るような曲ばかり。朝のウェイクアップ・コールにしたい音楽だったのを覚えています。
世間にはCDは広まっていましたが、レッスン音楽はカセットテープが主流の時代の話です。

うんと後の話ですが、レッスン音楽で目覚めたら気持ち良く1日が始められるかも…と思ってレッスン用CDを購入し、タイマーを仕掛けたことがあります。でも、レッスンをしている夢を見ながら曲の最後まで、いい気持ちで眠ってしまって、目覚ましになりませんでした。

現在、テープをCDにしたものが市販されているようですが、音質がよくないのか、古臭く聞こえるのか、リン・スタンフォードの音楽は平成のスタジオでは滅多に耳にしません。

でも、たまぁに「あの頃」の曲がかかることもあります。
音楽の合間からルシーニュ先生の声が聞こえてきそうな気がします。