第55話 アダルト・ダンサーのパイオニアたち

バレエを始めた頃、「クラシックバレエ入門」の本を借りに図書館通いをしたことは以前に書きましたが、帰りがけ、通り過ぎようとした書棚で萩原葉子さんの本に出会いました。
タイトルは忘れてしまったのですが、萩原葉子さんがお年を召されてからダンスにのめりこみ、自宅を改造して四六時中踊っていた様子が描かれていました。その熱中の仕方は、取り憑かれていると言ってもいいくらいでした。

日本の宇宙開発・ロケット開発の父、糸川英夫さんは、60歳のとき貝谷バレエ団の門をくぐったと言われています。

もとNHKアナウンサーの下重暁子さんも、今から30年くらい前、40代になってからバレエを始め、発表会にも出演したそうです。私がバレエに出会った頃、"おカタい" イメージのNHKのアナウンサーが中年になって舞台に挑戦するという話は世の関心を惹いたようです。

今でこそ、いろいろなメディアを通して「50代で(もしくはそれ以降に)バレエを始めた」体験談が語られていますが、大人になっても「バレエをやりたい」気持ちは最近になって急速に発生したものでは決してありません。大人からのバレエやダンスがレアだった時代、「踊りたい!」気持ちを叶えようとする熱意はときに世間を圧倒し、注目を集め、ときには感動を与えたものです。

今や大人のバレエは、もしかしたら子供のバレエより人口が多いかもしれません。
「大人」の年齢もどんどん上がっています。

でも、大人バレエがメジャーになったところで、やはりバレエは小さい頃からやっていないと―という固定観念は習う側の心の底にもあったりします。
こんなにやっているのに上達が目に見えてこない、先生に何度も同じことを言わせてしまう、教えてもらっても上手くならないのだから放ったらかしにしてもらったほうが気持ちがラク―そんなツブヤキを何度も耳にして、そういう思いと絶えず戦ってきた私は、その度に胸がしめつけられました。
それに、手軽に始められるのはいいことですが、手軽に辞めることもできてしまうのです。

このブログでは、ひたむきにバレエに取り組むアダルト・ダンサーの方たちを紹介させていただきました。投げやりな気分になったとき、もう辞めようかなと思ったとき、どこかのスタジオで汗を流している他のアダルト・ダンサーズを思い浮かべて、もう一回、レッスンに挑戦していただけると嬉しいです。